Step3 技術的な話

絶対値記号と不等式

数列や関数の極限の問題を考えるときは、絶対値記号と不等式を使うことが多いです。ここでは、絶対値記号と不等式について説明します。

絶対値の記号は次のように定義されています。
|x| = \left\{ \begin{array}{lr} x & ( x \geq 0 ) \\[2ex] -x & ( x < 0 ) \end{array} \right.
定義から、 | x | \geq 0 であり、 | x | = 0 となるのは x = 0 のときに限ることがわかります。また、 |x| \geq x |x|^2 = x^2 もすぐにわかるでしょう。さらに、絶対値記号は次の性質をもちます。
| x y | = |x| \, |y|, \ \ \ \ \ | x + y | \leq |x| + |y|
上の2番目の不等式は「3角不等式」とよばれ、いろいろな場面でよく利用される不等式です。この不等式が成り立つことは、次のようにして示されます。
\begin{array}{l} ( |x| + |y| )^2 - | x + y |^2 \\[2ex] \ \ \ \ = |x|^2 + 2|x| \, |y| + |y|^2 - ( x+ y )^2 \\[2ex] \ \ \ \ = |x|^2 + 2|x| \, |y| + |y|^2 - x^2 - 2xy \, - y^2 \\[2ex] \ \ \ \ = 2( |x| \, |y| - xy ) = 2( |xy| - xy ) \geq 0 \end{array}
絶対値記号を含む式の計算は、上の性質を利用して行います。また、絶対値記号を用いると2点 x y の間の距離は | \, x \ - \ y \, | で表されることがわかります。これは絶対値記号を使うときの最も重要なポイントです。

 

絶対値記号の復習が終わったところで、よく知られた極限の性質
\begin{array}{l} \displaystyle\lim_{n \to \infty} a_n = \alpha, \ \ \displaystyle\lim_{n \to \infty} b_n = \beta \\[3ex] \ \ \ \ \ \ \text{ならば} \ \ \ \displaystyle\lim_{n \to \infty} ( a_n + b_n ) = \alpha + \beta \end{array}
を示しておきましょう。

c_n = a_n + b_n とおくと、示したいことは \displaystyle\lim_{n \to \infty} c_n = \alpha + \beta 、すなわち、

任意の正の数 \varepsilon に対して、ある番号 N(\varepsilon) が存在し、 n \geq N(\varepsilon) をみたすすべての n に対して | \ c_n \ - \ (\alpha + \beta) \ | < \varepsilon

です。これは今から示すべきことであり、現時点では \varepsilon の関数 N(\varepsilon) の存在は保証されていません。一方、与えられた条件は、 \displaystyle\lim_{n \to \infty} a_n = \alpha \displaystyle\lim_{n \to \infty} b_n = \beta 、すなわち、

任意の正の数 \varepsilon_1 に対して、ある番号 N_1(\varepsilon_1) が存在し、 n \geq N_1(\varepsilon_1) をみたすすべての n に対して | \ a_n \ - \ \alpha \ | < \varepsilon_1

任意の正の数 \varepsilon_2 に対して、ある番号 N_2(\varepsilon_2) が存在し、 n \geq N_2(\varepsilon_2) をみたすすべての n に対して | b_n \ - \ \beta \ | < \varepsilon_2

の2つです。3つの数列 \{ a_n \} , \{b_n \} , \{ c_n \} は全く別々のものですから、 \{ a_n \} , \{b_n \} , \{ c_n \} に関する主張は、それぞれ別の記号を用いて書くことにしました。上の \{ a_n \} \{b_n \} に関する条件は与えられたものであり、 \varepsilon_1 の関数 N_1(\varepsilon_1) \varepsilon_2 の関数 N_2(\varepsilon_2) の存在は既に保証されています。したがって、 \varepsilon の関数 N(\varepsilon) の存在を示すためには、

存在が保証された既知の関数 N_1(\varepsilon_1) N_2(\varepsilon_2) を用いて、 \varepsilon の関数 N(\varepsilon) を具体的に定義する

しか方法がありません。そこで、 \{ c_n \} に関する主張の最後の不等式 | \ c_n \ - \ (\alpha + \beta) \ | < \varepsilon に注目します。3角不等式を用いると
\begin{array}{l} | \ c_n \ - \ (\alpha + \beta) \ | \\[2ex] \ \ \ \ = | \ ( a_n + b_n ) \ - \ ( \alpha + \beta ) \ | \\[2ex] \ \ \ \ = | \ ( a_n - \alpha ) \ + \ ( b_n - \beta ) \ | \\[2ex] \ \ \ \ \leq | \ a_n \ - \ \alpha \ | + | \ b_n \ - \ \beta \ | \end{array}
ですから、 n \geq N_1(\varepsilon_1) かつ n \geq N_2(\varepsilon_2) であれば
| \ c_n \ - \ ( \alpha + \beta ) \ | < \varepsilon_1 + \varepsilon_2
が成り立ちます。したがって、 \varepsilon_1 = \displaystyle\frac{\varepsilon}{2} および \varepsilon_2 = \displaystyle\frac{\varepsilon}{2} とおくと、 n \geq N_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) かつ n \geq N_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) であれば
| \ c_n \ - \ (\alpha + \beta) \ | < \frac{\varepsilon}{2} + \frac{\varepsilon}{2} = \varepsilon
が成り立つことがわかります。よって、例えば、
N(\varepsilon) = \max {\large (} N_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}), N_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) {\large )}
と定義します。ここで、 \max( a, b) a b のうちの大きい方を表します( a = b のときは a b のどちらでもかまいません)。このとき、 N(\varepsilon) \geq N_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) かつ N(\varepsilon) \geq N_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) となることに注意します。したがって、 n \geq N(\varepsilon) であれば、 n \geq N_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) かつ n \geq N_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) ですから、
| \ c_n \ - \ (\alpha + \beta) \ | < \frac{\varepsilon}{2} + \frac{\varepsilon}{2} = \varepsilon
が成り立ちます。つまり、 n \geq N(\varepsilon) をみたすすべての n に対して | \ c_n \ - \ (\alpha + \beta) \ | < \varepsilon が成り立つことがわかります。ここで定義した \varepsilon の関数 N(\varepsilon) は、既知の関数 N_1(\varepsilon_1) N_2(\varepsilon_2) を用いて定義されていますので、存在が完全に保証されています。

N( \varepsilon) を定義する方法は他にもあるのでしょうか?

例えば、 N(\varepsilon) = N_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) + N_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) のように定義することもできます。

練習問題5  \displaystyle\lim_{n \to \infty} a_n = \alpha のとき、 \displaystyle\lim_{n \to \infty} c a_n = c \alpha が成り立つことを示しなさい。

 

この練習問題は楽勝ですね。期末テストに出してもらいたいです。

いや、楽勝ではないですよ。テストで「できた」と思っても、実際は「0点」で採点されてしまう人が多い問題ですよ。

そうなんですか?信じられません。

付録でその理由を説明しますよ。

 

論理記号の使い方

これまでの話を振り返ってみると、「任意の・・・」や「ある・・・が存在して」という句が何回も登場していました。そこで、「任意の」「存在する」という言葉を記号で表すことを考えましょう。記号を使うことにより、いろいろな主張をすっきりと表現することができるだけでなく、複雑な言い換えも正確にできるようになります。

「任意の・・・に対して」「すべての・・・に対して」というときの「任意の」「すべて」は文中で同じ意味をもつ言葉で、英語では「All」「 Any」「Arbitrary」という単語に相当しています。そこで、「All」の頭文字の「A」に注目して A を逆さまにした記号 \forall を導入します。これは「任意の」「すべての」を意味する記号です。

「・・・が存在する」「・・・がある」というときの「存在する」「ある」は文中では同じ意味をもつ言葉です。「存在する」を英語で表すと「Exist」 になりますが、この頭文字の「E」に注目して E の左右を逆にした記号 \exists を導入します。これは「存在する」「ある」を意味する記号です。

上で導入した記号を用いて、数列の極限の定義「任意の正の数 \varepsilon に対して、ある番号 N(\varepsilon) が存在し、 n \geq N(\varepsilon) をみたすすべての n に対して | \ a_n \ - \ \alpha \ | < \varepsilon が成り立つ」を表してみましょう。そのために、この定義の文を英語で表してみます。

For any \varepsilon > 0 , there exists a number N(\varepsilon) such that for all n \geq N(\varepsilon) , we have | \ a_n \ - \ \alpha \ | < \varepsilon .

上の英文は少しぎこちない感じがします。他の文例もあるのではないでしょうか?

確かに少しぎこちないかもしれませんね。例えば、「For any \varepsilon > 0 , there exists a number N(\varepsilon) such that | \ a_n \ - \ \alpha \ | < \varepsilon holds for all n \geq N(\varepsilon) 」の語順にしたほうが英文としてはよいかもしれません。他にもっとよい英文もあるでしょう。しかし、例えば、数列の極限の定義文の否定形をつくって「極限をもたない数列」を考えたりするときには、最初に述べた英文のほうが扱いやすいのです。

上の英文をもとに、数列の極限の定義を次のように書き表します。

^{\forall}\varepsilon > 0, \ ^{\exists}N(\varepsilon) \in {\bf N} s.t. ^{\forall}n \geq N(\varepsilon), \ | \ a_n \ - \ \alpha \ | < \varepsilon

ただし、 {\bf N} は自然数全体の集合を表す記号で、 N(\varepsilon) \in {\bf N} N(\varepsilon) {\bf N} の要素(元)であること、すなわち、 N(\varepsilon) が自然数であることを意味します。また、s.t. は such that の略です。

このように記号化すると、定義文を書く手間を少なくできるメリットはありますが、初めてこの議論を学ぶときは、やや難しく感じるかもしれません。

記号の列からなる文を機械的に丸写しするだけでなく、声に出して「任意の正の数 \varepsilon に対して、ある番号 N(\varepsilon) が存在して、 n \geq N(\varepsilon) をみたすすべての n に対して | \ a_n \ - \ \alpha \ | < \varepsilon が成り立つ」と読んでみたりして、慣れていくことが大切です。

 

これまでに導入した記号に慣れるために、簡単な例題をやってみましょう。

例題1 数列 \{ a_n \} が収束するとき、 \{ a_n \} は有界であることを示せ。ただし、数列 \{ a_n \} が有界であるとは「ある正の数 M が存在して、すべての番号 n に対して | \, a_n \, | \leq M が成り立つ」すなわち、

^{\exists}M > 0 \ \ s.t. \ ^{\forall}n \in {\bf N} , \ | \, a_n \, | \leq M

が成り立つときをいう。

[解] 数列 \{ a_n \} は収束するから、任意の正の数 \varepsilon に対して、ある番号 N(\varepsilon) が存在し、 n \geq N(\varepsilon) をみたすすべての n に対して | \ a_n \ - \ \alpha \ | < \varepsilon が成り立つ。すなわち、

^{\forall}\varepsilon > 0, \ ^{\exists}N(\varepsilon) \in {\bf N} s.t. ^{\forall}n \geq N(\varepsilon), \ | \ a_n \ - \ \alpha \ | < \varepsilon

である。 \varepsilon は任意であるから、とくに、 \varepsilon = 1 とおくと、ある番号 N(1) が存在し、 n \geq N(1) をみたすすべての n に対して | \ a_n \ - \ \alpha \ | < 1 が成り立つ。すなわち、

^{\exists}N(1) \in {\bf N} s.t. ^{\forall}n \geq N(1), \ | \ a_n \ - \ \alpha \ | < 1

である。3角不等式を用いると、上の最後の不等式より

| \ a_n \ | = | \ a_n \ - \ \alpha \ + \ \alpha \ | \leq | \ a_n \ - \ \alpha \ | + | \alpha | < 1 + | \alpha |

であるから、

^{\exists}N(1) \in {\bf N} s.t. ^{\forall}n \geq N(1), \ | \ a_n \ | < 1 + | \alpha |

である。すなわち、ある番号 N(1) が存在し、 n \geq N(1) をみたすすべての n に対して | \ a_n \ | < 1 + | \alpha | が成り立つ。したがって、番号 N(1) の1つ前の番号 N(1)-1 に注意して、 a_1, \ a_2, \ \cdots, \ a_{N(1)-1} の絶対値と 1 + | \alpha | の大小を考えればよい。そこで、

M = \max\{ \ | a_1 |, \ | a_2 |, \ \cdots, \ | a_{N(1) - 1} |, \ 1 + | \alpha | \ \}

とおく。すなわち、 M | a_1 |, \ | a_2 |, \ \cdots, \ | a_{N(1) - 1} |, \ 1 + | \alpha | のうちの最大のものとすれば、すべての番号 n に対して、 | a_n | M 以下であり、

^{\exists}M > 0 \ \ s.t. \ ^{\forall}n \in {\bf N} , \ | \, a_n \, | \leq M

が成り立つ。よって、 \{ a_n \} は有界である。(証明終)

この解答のポイントは \varepsilon = 1 とおいたところでしょうか?

その通りです。存在が保証されている関数 N(\varepsilon) に対して、 1 という存在が保証された数をとり、 \varepsilon = 1 とおくことによって、 N(1) という有限な番号が確定するのです。その結果、 \{ \ | a_1 |, \ | a_2 |, \ \cdots, \ | a_{N(1) - 1} |, \ 1 + | \alpha | \ \} N(1) 個の要素(元)からなる有限集合であることがわかります。したがって、この集合の最大値 M の値が確定し、 M の存在が保証されることになります。この解答では、 \varepsilon = 1 とおきましたが、例えば、 \varepsilon = 100 でもかまいません。存在が保証された数を、存在が保証された関数に代入することに意味があるのです。そのような観点から見ると、 \varepsilon の値を選んで決めていない( \varepsilon を任意のままにしている)解答は0点と採点されてもしかたがありません。

 

練習問題6  \displaystyle\lim_{n \to \infty} a_n = \alpha \neq 0 のとき、 a_n = 0 となる a_n は有限個(0個の場合も含む)であることを示しなさい。

 

例題1の解答では、記号列に対応する日本語の文を付けました。次の例題の解答では、記号列のみを書きますので、対応する日本語の文を自分の頭の中で補って読んで下さい。

例題2  \displaystyle\lim_{n \to \infty} a_n = \alpha, \ \ \displaystyle\lim_{n \to \infty} b_n = \beta ならば \ \displaystyle\lim_{n \to \infty} a_n b_n = \alpha \beta であることを示せ。

[解]  c_n = a_n b_n とおくと、示すべき主張は

^{\forall}\varepsilon > 0, \ ^{\exists}N(\varepsilon) \in {\bf N} s.t. ^{\forall}n \geq N(\varepsilon), \ | \ c_n \ - \ \alpha \beta \ | < \varepsilon

である。一方、与えられた条件は

^{\forall}\varepsilon_1 > 0, \ ^{\exists}N_1(\varepsilon_1) \in {\bf N} s.t. ^{\forall}n \geq N_1(\varepsilon_1), \ | \ a_n \ - \ \alpha \ | < \varepsilon_1

^{\forall}\varepsilon_2 > 0, \ ^{\exists}N_2(\varepsilon_2) \in {\bf N} s.t. ^{\forall}n \geq N_2(\varepsilon_2), \ | \ b_n \ - \ \beta \ | < \varepsilon_2

である。いま、示すべき主張の最後の不等式 | \ c_n \ - \ \alpha \beta \ | < \varepsilon に注目して、 | \ c_n \ - \ \alpha \beta \ | を計算すると
\begin{array}{l} \ | \ c_n \ - \ \alpha \beta \ | \ = \ | \ a_n b_n \ - \ \alpha\beta \ | \\[2ex] \ \ \ \ \ = \ | \ a_n b_n \ - \ a_n \beta \ + \ a_n \beta \ - \ \alpha \beta \ | \\[2ex] \ \ \ \ \ \leq \ | \ a_n ( b_n \ - \ \beta ) \ | \ + \ | \ ( a_n \ - \ \alpha ) \beta \ | \\[2ex] \ \ \ \ \ = | \ a_n \ | | \ b_n \ - \ \beta \ | \ + \ | \ a_n \ - \ \alpha \ | | \ \beta \ | \end{array}
である。例題1の結果から、 \{ a_n \} は有界、すなわち、

^{\exists}M > 0 \ \ s.t. \ ^{\forall}n \in {\bf N} , \ | \, a_n \, | \leq M

であることから、 n \geq N_1(\varepsilon_1) かつ n \geq N_2(\varepsilon_2) であれば

| \ c_n \ - \ \alpha \beta \ | \ \leq \ | \ a_n \ | | \ b_n \ - \ \beta \ | \ + \ | \ a_n \ - \ \alpha \ | | \ \beta \ | \ \leq \ M \varepsilon_2 \ + \ | \ \beta \ | \varepsilon_1

が成り立つ。よって、 \varepsilon_1 = \displaystyle\frac{\varepsilon}{M + |\beta|} および \varepsilon_2 = \displaystyle\frac{\varepsilon}{M + |\beta|} とおくと、 n \geq N_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{M + |\beta|}) かつ n \geq N_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{M + |\beta|}) であれば
| \ c_n \ - \ \alpha \beta \ | \leq M \cdot \frac{\varepsilon}{M + |\beta|} + |\beta| \cdot \frac{\varepsilon}{M + |\beta|} = \varepsilon
が成り立つ。したがって、
N(\varepsilon) = \max {\large (} N_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{M + |\beta|}), \ N_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{M + |\beta|}) {\large )}
と定義すれば、 n \geq N(\varepsilon) のとき、 n \geq N_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{M + |\beta|}) かつ n \geq N_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{M + |\beta|}) であるから

^{\forall}\varepsilon > 0, \ ^{\exists}N(\varepsilon) \in {\bf N} s.t. ^{\forall}n \geq N(\varepsilon), \ | \ c_n \ - \ \alpha \beta \ | < \varepsilon

が成り立つ。(証明終)

これまでの問題を見る限り、証明すべき主張の最後の不等式に注目しているように思えます。

そうですね。数列の極限を厳密に議論することは、不等式の証明をすることになります。不等式の証明は、もとの前提を結論から逆にたどっていくのが手筋です。

 

練習問題7  \displaystyle\lim_{n \to \infty} a_n = \alpha \neq 0 のとき、次が成り立つことを示しなさい。

(1) ^{\exists}N_1 \in {\bf N} s.t. ^{\forall}n \geq N_1, \ \displaystyle\frac{1}{| a_n |} < \displaystyle\frac{2}{|\alpha|} (ヒント: \alpha を中心とする半径 \displaystyle\frac{|\alpha|}{2} の円(正確には区間)を考える)

(2) \displaystyle\lim_{n \to \infty}\displaystyle\frac{1}{a_n} = \displaystyle\frac{1}{\alpha}

例題2の結果と合わせると、 \displaystyle\lim_{n \to \infty} a_n = \alpha \neq 0, \ \displaystyle\lim_{n \to \infty} b_n = \beta のとき、 \displaystyle\lim_{n \to \infty} \displaystyle\frac{b_n}{a_n} = \displaystyle\frac{\beta}{\alpha} となることがわかりますね。

 

関数の極限は数列の極限と同じように扱うことができるので、関数の極限の定義も論理記号を使って次のように表すことができます。

^{\forall}\varepsilon >0, \ ^{\exists}\delta(\varepsilon) >0 \ \ s.t. \ \ 0 < | x \, - \, a| < \delta(\varepsilon) \ \Longrightarrow \ | \, f(x) \, - \, \alpha \, | < \varepsilon

ここで、 \Longrightarrow は「ならば」を意味する記号です。したがって、上の定義は

任意の正の数 \varepsilon に対して、ある正の数 \delta(\varepsilon) が存在し、 0 < | \, x \, - \, a \, | < \delta(\varepsilon) ならば | \, f(x) \, - \, \alpha \, | < \varepsilon が成り立つ。

を意味することになります。Step2で述べた関数の極限の定義文と少しだけ表面上の違いが生じますが、本質的には同じことを意味しているので問題はありません。

関数の極限の定義を論理記号で表したときに、なぜ \Longrightarrow の記号を用いたのでしょうか?

本来は、 s.t. 以下の部分を

^{\forall}x \in \{ \, x \, | \, 0 < | x \, - \, a| < \delta(\varepsilon) \, \}, \ \ | \, f(x) \, - \, \alpha \, | < \varepsilon

のように書くのがよいと私は思います。この表現は正確で、否定命題をつくるときなどにも誤りが生じにくいというメリットがあります。しかし、この表現は集合の記号を用いていて少し大げさな感じがします。そのため、習慣として、 \Longrightarrow の記号を用いた表現が広く用いられているようです。数列の極限の定義についても同様で「 n \geq N(\varepsilon) \Longrightarrow | a_n \ - \ \alpha | < \varepsilon 」という表現がよく出ます。

 

数列の場合に \displaystyle\lim_{n \to \infty} a_n = \alpha, \ \displaystyle\lim_{n \to \infty} b_n=\beta ならば \displaystyle\lim_{n \to \infty} (a_n + b_n) = \alpha + \beta が成り立つことを示しましたが、関数の極限についても同様の性質が成り立つことが同様の議論によって示されます。ここでは、論理記号を用いてみましょう。

例題3  \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = \alpha, \ \displaystyle\lim_{x \to a} g(x) = \beta のとき \displaystyle\lim_{x \to a} (f(x) + g(x)) = \alpha +\beta が成り立つことを示せ。

数列の場合に \displaystyle\lim_{n \to \infty} a_n = \alpha, \ \displaystyle\lim_{n \to \infty} b_n=\beta ならば \displaystyle\lim_{n \to \infty} (a_n + b_n) = \alpha + \beta が成り立つことを示しましたが、そのときの証明とほとんど同じです。

[解]  h(x) = f(x) + g(x) とおくと、証明すべきことは、 \displaystyle\lim_{x \to a} h(x) = \alpha +\beta 、すなわち、
\begin{array}{l} ^{\forall}\varepsilon>0, \ ^{\exists}\delta(\varepsilon) >0 \ \ s.t. \\[2ex] \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ 0 < | x \, - \, a | < \delta(\varepsilon) \ \Longrightarrow \ | h(x) \, - \, (\alpha+\beta) | < \varepsilon \end{array}
であり、 \delta(\varepsilon) の存在を示すことが目標である。

与えられた条件より、 \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = \alpha, \ \displaystyle\lim_{x \to a} g(x) = \beta であるから、

^{\forall}\varepsilon_1>0, \ ^{\exists}\delta_1(\varepsilon_1) >0 \ \ s.t. \ \ 0 < | x \, - \, a| < \delta_1(\varepsilon_1) \ \Longrightarrow \ |f(x) \, - \, \alpha| < \varepsilon_1 ^{\forall}\varepsilon_2>0, \ ^{\exists}\delta_2(\varepsilon_2) > 0 \ \ s.t. \ \ 0 < | x \, - \, a| < \delta_2(\varepsilon_2)\ \Longrightarrow \ |g(x) \, - \, \beta| < \varepsilon_2

が成り立つ。 \delta_1(\varepsilon_1) \delta_2(\varepsilon_2) は存在が保証されているから、これらを用いて \delta(\varepsilon) を定義すればよい。

\varepsilon_1 \varepsilon_2 は任意であるから、とくに、 \varepsilon_1 = \displaystyle\frac{\varepsilon}{2}, \ \varepsilon_2 = \displaystyle\frac{\varepsilon}{2} とおくと

^{\exists}\delta_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) >0 \ \ s.t. \ \ 0 < | x \, - \, a| < \delta_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) \ \Longrightarrow \ |f(x) \, - \, \alpha| < \displaystyle\frac{\varepsilon}{2} ^{\exists}\delta_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) >0 \ \ s.t. \ \ 0 < | x \, - \, a| < \delta_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) \ \ \Longrightarrow |g(x) \, - \, \beta| < \displaystyle\frac{\varepsilon}{2}

いま、 ^{\forall}\varepsilon >0 に対して、

\delta(\varepsilon) = \min( \delta_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}), \ \delta_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) )

と定める。このとき、 \delta(\varepsilon) \leq \delta_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) かつ \delta(\varepsilon) \leq \delta_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) であるから、 0 < | x \, - \, a| < \delta(\varepsilon) ならば 0 < | x \, - \, a| < \delta_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) 0 < | x \, - \, a| < \delta_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) の両方が同時に成り立つ。

したがって、 0 < | x \, - \, a| < \delta(\varepsilon) ならば
\begin{array}{l} {\large |} h(x) \, - \, (\alpha + \beta) {\large |} = {\large |} (f(x) + g(x) ) \, - \, (\alpha + \beta) {\large |}\\[2ex] \ \ \ = {\large |} (f(x) \, - \, \alpha ) \, + \, ( g(x) \, - \, \beta) {\large |} \\[2ex] \ \ \ \leq {\large |} f(x) \, - \, \alpha {\large |} + {\large |} g(x) \, - \, \beta {\large |} \\[2ex] \ \ \ < \displaystyle\frac{\varepsilon}{2} +\displaystyle\frac{\varepsilon}{2} = \varepsilon \end{array}
が成り立つ。(証明終)

上の例題の解答で、既に存在が保証されている \delta_1(\varepsilon_1) \delta_2(\varepsilon_2) を利用して、 \delta(\varepsilon) が定義されたことは、数列の場合と同様です。

ただし、 0 < | x \, - \, a| < \delta(\varepsilon) のとき、 0 < | x \, - \, a| < \delta_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) 0 < | x \, - \, a| < \delta_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) が同時に成り立つようにするには、数列の場合と違って、 \max ではなく \min を用いて、 \delta(\varepsilon) = \min( \delta_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}), \ \delta_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) ) のように定義しなければならないことに注意しましょう。

練習問題8 以下の (1) と (2) が成り立つことを示しなさい。

(1) \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = \alpha のとき、ある正の数 M が存在して次が成り立つ:ある正の数 \rho が存在して、 0 < | x \, - \, a| < \rho をみたすすべての x に対して、 | f(x) | < M である。

(2) \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = \alpha , \displaystyle\lim_{x \to a} g(x) = \beta ならば \displaystyle\lim_{x \to a} f(x)g(x) = \alpha\beta

 

否定命題の作り方

ここでは、「任意の・・・」や「ある・・・が存在する」という句を含む文を否定することを考えてみます。

どんな言語を用いても、文を読むときは、先頭から読んでいくのが普通です。また、言葉や句の意味は、それよりも前に出てきた言葉に影響を受けています。このことは、原則として文を構成している言葉や句の順序は変更できないことを意味しています。例えば、次の2つの主張を比べてみましょう。

(A) 任意の自然数 n に対して、ある正の数 M が存在して、 | \, a_n \, | \leq M が成り立つ。

(B) ある正の数 M が存在して、任意の自然数 n に対して、 | \, a_n \, | \leq M が成り立つ。

上の2つの主張は、いずれも「 | \, a_n \, | \leq M が成り立つ」ことを意味しています。しかし、(A) と (B) では「任意の自然数 n 」と「ある正の数 M が存在して」という句が登場する順序が逆になっているため、両者の間には決定的な違いがあるのです。

(A) の場合は、存在している正の数 M の前に、任意の自然数 n が登場しています。よって、後に続く言葉の意味は前に出てきた言葉に依存して決まるという基本的原則を思い出すと、正の数 M は自然数 n に依存して存在するものです。つまり、正の数 M は自然数 n の関数であり、本来は M(n) と表すべきです。

一方、(B) の場合は、存在している正の数 M の前には、何もありません。したがって、正の数 M は他の影響を一切受けないで存在しているものであり、自然数 n の関数ではありません。

例えば、 a_n = n で与えられる数列 \{ a_n \} を考えてみます。この数列は主張 (A) をみたします。実際、任意の自然数 n に対して、正の数 M M(n) = n とすれば、 | a_n | = n \leq M が成り立ちます。しかし、 \{ a_n \} は主張 (B) をみたしません。

主張 (B) をみたす数列としては、例えば、 a_n = \displaystyle\frac{1}{n} で与えられる \{ a_n \} があります。実際、 M = 1 とすれば、すべての自然数 n に対して、 | a_n | = \displaystyle\frac{1}{n} \leq 1 = M が成り立ちます。このときの M = 1 は他の影響を一切受けないで存在するものであり、自然数 n の関数ではありません。

私の本では、数列の極限の定義が「任意の正の数 \varepsilon に対して、ある自然数 N が存在して、 \cdots 」と書いてあった理由がわかったような気がします。

そうですね。後に出てくる言葉の意味は前に出てきた言葉に依存して決まるという基本原則を暗黙のうちに認めて使っているということだと思います。ただ、これまでの話を振り返ってみると、「任意の正の数 \varepsilon に対して、ある自然数 N(\varepsilon) が存在して、 \cdots 」と書いた方が理解しやすくて間違えにくいのではないでしょうか。でも、これは自転車に乗れるようになるために補助輪をつけて練習をしているのと同じです。このセクションでは、そろそろ補助輪をつけるのはやめにしようと思います。

 

文は先頭から読むものであり、語順を変更することはできないという基本原則を確かめたので、「任意の・・・」や「ある・・・が存在する」という句を含む文を否定することを考えてみましょう。

次の2つの主張を考えてみます。

(1) 死者をよみがえらせる方法がある。

(2) すべての道はローマに通じている。

上の2つの主張はいずれも偽だと思われます。実際、(1) は常識的にありえないだろうし、(2) については日本国内の道路がイタリアのローマに通じていないのでありえません。したがって、(1) と (2) を否定した主張が正しいと思われます。それは、次のようになります。

(1′) どんな方法を用いても死者をよみがえらせることはできない。

(2′) ローマに通じていない道がある。

上の4つの文はいずれも日常会話で使われると思われますが、これらを「任意の」「存在する」という言葉を用いた表現に書き直してみます。

(1) ある方法が存在して、(その方法で)死者をよみがえらせることができる。

(1′) 任意の方法に対して、(その方法で)死者をよみがえらせることはできない。

(2) 任意の道に対して、(その道は)ローマに通じている。

(2′) ある道が存在して、(その道は)ローマに通じていない。

これらの例から、次の規則が成り立つことがわかります。

「ある \cdots が存在して、 --- である」の否定は「任意の \cdots に対して、 --- でない」
「任意の \cdots に対して、 --- である」の否定は「ある \cdots が存在して、 --- でない」

つまり、文の否定形をつくるときは、「ある」が「任意」に変わり、「任意」が「ある」に変わるのです。記号で言えば、 \exists \forall に変わり、 \forall \exists に変わります。

次に、数学的な主張を否定することを考えましょう。まず、このセクションの最初にとりあげた

(A) 任意の自然数 n に対して、ある正の数 M が存在して、 | \, a_n \, | \leq M が成り立つ。

の否定形をつくってみましょう。ここまでの話がよく理解できていれば、「 | \, a_n \, | \leq M でない」は「 | \, a_n \, | > M 」と同じであることに注意して、

(A’) ある自然数 n が存在して、任意の正の数 M に対して、 | \, a_n \, | > M が成り立つ。

が (A) の否定形になることがわかるでしょう。

ここで、注意することは、(A) の場合には、正の数 M が自然数 n の関数であったのに対して、(A’) の場合には、正の数 M と自然数 n の間の関数(依存)関係がなくなってしまうことです。

(A) を「任意の自然数 n に対して、ある正の数 M(n) が存在して、 | \, a_n \, | \leq M(n) が成り立つ」のように書くことができるのに対して、(A’) を「ある自然数 n が存在して、任意の正の数 M(n) に対して、 | \, a_n \, | > M(n) が成り立つ」のように書いてはいけないということですね。

その通りです。ただ、どういうわけか、試験をすると、このようなミスをする人がかなり現れます。そもそも、「任意」という言葉は「勝手に選ぶ」ということを意味しているのですから、(A’) において、任意の正の数 M を自然数 n に依存して選ぶことはありえません。

確かにそうですね。(A’) では、ある自然数 n は固定されたものだから、 M M(n) と書いてしまうと、 M は固定されたものになりますね。

同様に考えると、

(B) ある正の数 M が存在して、任意の自然数 n に対して、 | \, a_n \, | \leq M が成り立つ。

の否定形は

(B’) 任意の正の数 M に対して、ある自然数 n が存在して、 | \, a_n \, | > M が成り立つ。

になることがわかります。(B) の場合には、正の数 M と自然数 n の間には依存関係(関数関係)がなかったのに対して、(B’) の場合には、自然数 n が正の数 M の関数になるのです。

(B) を「ある正の数 M が存在して、任意の自然数 n(M) に対して、 | \, a_{n(M)} \, | \leq M が成り立つ」のように書くことはできませんが、(B’) を「任意の正の数 M に対して、ある自然数 n(M) が存在して、 | \, a_{n(M)} \, | > M が成り立つ」のように書くのはいいのですね?

そうです。「任意の」という言葉がついたものは勝手に選ぶものであり、何かに依存して選ぶものではありません。一方、「ある」という言葉がついたものは既に登場した何かに依存して決まっている可能性があります。

以上のように、文の否定形をつくったとき、依存関係が失われたり生じたりするという事実は、見落としがちになりますので、細心の注意を払う必要があります。

練習問題9 上の条件 (A’) をみたす数列の例はありますか?また、条件 (B’) についてはどうでしょうか。

練習問題10 次の主張をみたす関数 f(x) の例を挙げなさい。また、もとの主張の否定形をつくり、それをみたす関数 f(x) の例を挙げなさい。

(i) ある正の数 K が存在して、任意の正の数 x に対して、 f(x) \leq K が成り立つ。

(ii) 任意の正の数 K に対して、 x < 1 をみたすある正の数 x=x(K) が存在して、 f(x) > K が成り立つ。

(ヒント) 「 x < 1 をみたすある正の数 x=x(K) が存在して」という部分の否定がわかりにくいかもしれません。論理記号を使って、この部分を ^\exist x=x(K) \in (0, 1) のように表して考えてみるとよいでしょう。

数列の極限の定義「任意の正の数 \varepsilon に対して、ある番号 N(\varepsilon) が存在し、 n \geq N(\varepsilon) をみたすすべての n に対して | \ a_n \ - \ \alpha \ | < \varepsilon 」を否定するとどうなるのですか?

それはちょっと難しいので、付録で説明しますよ。

 

よくがんばりましたね。ここまでやれば、後はなんとかなるでしょう。

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