Step3 関数の極限

関数の極限

数列の極限が理解できていれば、関数の極限も同じように理解することが可能です。数列の極限のイメージは

番号 n の値が限りなく大きくなるにつれて、 a_n の値がある一定の値 \alpha に限りなく近づく

というものでした。このイメージは

任意の正の数 \varepsilon に対して、ある番号 N(\varepsilon) が存在し、 n \geq N(\varepsilon) をみたすすべての n に対して、 | \, a_n \, - \, \alpha \, | < \varepsilon が成り立つ

という形で正確に定義されました。 N(\varepsilon) の値が(普通は)大きいという事実を思い出すと、上の定義の「 n \geq N(\varepsilon) をみたすすべての n に対して」という部分が、「番号 n の値が限りなく大きくなるにつれて」というイメージの部分に対応していると考えられます。

一方、関数の極限のイメージは

変数 x の値が a 以外の値を取りながら a に限りなく近づくにつれて、 f(x) の値がある一定の値 \alpha に限りなく近づく

というものです。変数 x を番号 n に対応させて考えると、数列の極限と関数の極限のイメージは本質的に同じものであることがわかります。

また、両者の違いが「変数 x の値が a 以外の値を取りながら a に限りなく近づくにつれて」という部分にあることもわかるでしょう。

数列の極限の場合は、 N(\varepsilon) が大きいことを前提として、「番号 n の値が限りなく大きくなるにつれて」というイメージを不等式 n \geq N(\varepsilon) で表現していました。

それに対して、関数の極限の場合の「変数 x の値が a 以外の値を取りながら a に限りなく近づくにつれて」というイメージは、不等式
0 < | \, x \, - \, a \, | < \delta(\varepsilon)
で表現されます。 \delta はギリシア文字で「デルタ」とよばれます。

ここでは、 \delta(\varepsilon) が小さいことを前提にしています。実際、 | \, x \, - \, a \, | が2点 x a の間の距離を表すことを思い出すと、 | \, x \, - \, a \, | < \delta(\varepsilon) x a から距離 \delta(\varepsilon) だけ離れた範囲内にあることを意味しています。

したがって、 \delta(\varepsilon) の値が小さければ、 x a の近くにあることになります。また、 0 < | \, x \, - \, a \, | x \neq a を意味するので、 x a という値をとることはできません。

以上を踏まえて、関数の極限を次のように定義します。

任意の正の数 \varepsilon に対して、ある正の数 \delta(\varepsilon) が存在し、 0 < | \, x \, - \, a \, | < \delta(\varepsilon) をみたすすべての x に対して、 | \, f(x) \, - \, \alpha \, | < \varepsilon が成り立つとき、関数 f(x) x \to a のとき \alpha に収束するといい、 \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = \alpha と表す。また、 \alpha x \to a のときの f(x) の極限値という。

これが、イプシロンデルタ論法にもとづく関数の極限の定義とよばれているものです。この定義における最も重要なポイントは、正の数 \delta \varepsilon の関数であることです。関数 \delta(\varepsilon) の存在が関数の極限値への収束を保証しているのです。それは、数列の場合と全く同じです。

\delta \varepsilon の関数で、 \delta(\varepsilon) の存在が関数の極限値への収束を保証することはわかりました。でも、 \varepsilon の値が小さくなると、 \delta(\varepsilon) の値は小さくなるのでしょうか?数列の場合は、 \varepsilon の値が小さくなると、 N(\varepsilon) の値は大きくなりましたが。

\varepsilon の値が小さくなると、 \delta(\varepsilon) の値も(普通は)小さくなります。言葉で説明するのは難しいので、次の図を見て理解してください。

上の定義を理解するために、関数 f(x) = x^2 について、 \displaystyle\lim_{x \to 2} f(x) = 4、すなわち、 x \to 2 のとき f(x) 4 に収束することを示してみます。目標は、

任意の正の数 \varepsilon に対して、ある正の数 \delta(\varepsilon) が存在し、 0 < | \, x \, - \, 2 \, | < \delta(\varepsilon) をみたすすべての x に対して、 | \, f(x) \, - \, 4 \, | < \varepsilon が成り立つ

という主張を示すことです。そのために、この主張の最後の不等式 | \, f(x) \, - \, 4 \, | < \varepsilon に注目します。
| \, f(x) \, - \, 4 \, | = | \, x^2 \, - \, 4 \, | = | \, x \, - \, 2 \, | | \, x \, + \, 2 \, |
ですから、 | \, x \, - \, 2 \, | | \, x \, + \, 2 \, |< \varepsilon が成り立つような x の範囲を探せばよいことになります。 x 2 に近ければ、 | x + 2 | 4 に近いと思われます。そこで、 x 2 に近いと考えて、 | x + 2 | < 5 と仮定します。

ここでは、余裕をもたせるために、 4 1 を加えて 5 にしました。

このとき、 |x+2| | x+2 | < 5|x - 2| ですから、 \delta(\varepsilon) = \frac{\varepsilon}{5}
と定めれば、 0 < | x \, - 2 | < \delta(\varepsilon) をみたすすべての x に対して、
\begin{array}{l} |f(x) \, - \, 4| = |x-2| |x+2| \\[2ex] \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ < 5 | x-2| < 5 \, \delta(\varepsilon) = 5 \cdot \displaystyle\frac{\varepsilon}{5} = \varepsilon \end{array}
となります。

上の議論は、 | x + 2 | < 5 の仮定の下で考えたものでした。この不等式は、 -5 < x + 2 < 5、すなわち、 -7 < x < 3 と同じです。したがって、 x の範囲を 1 < x < 3、つまり、 | x \, - 2 | < 1 をみたすように制限しておけば、この議論が使えることになります。そこで、 | x + 2 | < 5 の仮定をはずして
\delta(\varepsilon) = \min( \frac{\varepsilon}{5}, \ 1 )
のように修正します。ここで、 \min(x, y) x, \, y のうちの小さいほう(等しい場合はどちらでもよい)を表します。このとき、 \delta(\varepsilon) \leq \displaystyle\frac{\varepsilon}{5} \delta(\varepsilon) \leq 1 の両方が成り立つことに注意します。

x 0 < | \, x \, - \, 2 \, | < \delta(\varepsilon) をみたすとします。このとき、 \delta(\varepsilon) \leq 1 より | x \, - 2 | < 1 ですから、 | x + 2 | < 5 が成り立ちます。したがって、
\begin{array}{l} |f(x) \, - \, 4| = |x - 2| |x + 2| \\[2ex] \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ < 5 | x -2| < 5 \, \delta(\varepsilon) = 5 \cdot \displaystyle\frac{\varepsilon}{5} = \varepsilon \end{array}
となります。以上より、任意の正の数 \varepsilon に対して、 \delta(\varepsilon) = \min( \displaystyle\frac{\varepsilon}{5}, 1 ) と定めると、 0 < | \, x \, - \, 2 \, | < \delta(\varepsilon) をみたすすべての x に対して、 | \, f(x) \, - \, 4 \, | < \varepsilon が成り立つことがわかります。

練習問題6  f(x) = \sqrt{x} のとき、 \displaystyle\lim_{ x \to 1 }f(x) = 1 であることを示しなさい。

 

関数の極限は数列の極限と同じように扱うことができるので、関数の極限の定義も論理記号を使って次のように表すことができます。

^{\forall}\varepsilon >0, \ ^{\exists}\delta(\varepsilon) >0 \ \ s.t. \ \ 0 < | x \, - \, a| < \delta(\varepsilon) \ \Longrightarrow \ | \, f(x) \, - \, \alpha \, | < \varepsilon

ここで、 \Longrightarrow は「ならば」を意味する記号です。したがって、上の定義は

任意の正の数 \varepsilon に対して、ある正の数 \delta(\varepsilon) が存在し、 0 < | \, x \, - \, a \, | < \delta(\varepsilon) ならば | \, f(x) \, - \, \alpha \, | < \varepsilon が成り立つ。

を意味することになります。最初に述べた関数の極限の定義文と少しだけ表面上の違いが生じますが、本質的には同じことを意味しているので問題はありません。

関数の極限の定義を論理記号で表したときに、なぜ \Longrightarrow の記号を用いたのでしょうか?

本来は、 s.t. 以下の部分を

^{\forall}x \in \{ \, x \, | \, 0 < | x \, - \, a| < \delta(\varepsilon) \, \}, \ \ | \, f(x) \, - \, \alpha \, | < \varepsilon

のように書くのがよいと私は思います。この表現は正確で、否定命題をつくるときなどにも誤りが生じにくいというメリットがあります。しかし、この表現は集合の記号を用いていて少し大げさな感じがします。そのため、習慣として、 \Longrightarrow の記号を用いた表現が広く用いられているようです。数列の極限の定義についても同様で「 n \geq N(\varepsilon) \Longrightarrow | a_n \ - \ \alpha | < \varepsilon 」という表現がよく出ます。

否定命題のつくりかたを思い出して、関数の極限の定義を否定すると、次のようになることが正確にわかりますね。

^{\exists}\varepsilon >0, \ ^{\forall}\delta >0, \ ^{\exists}x(\delta) \in \{ \, x \, | \, 0 < | x \, - \, a| < \delta \, \}, \ | \, f(x) \, - \, \alpha \, | \geq \varepsilon

意味を正確に理解した上で、このような式を使いこなせるようになれば、イプシロンデルタ論法の習得も近いといえますね。

 

数列の場合に \displaystyle\lim_{n \to \infty} a_n = \alpha, \ \displaystyle\lim_{n \to \infty} b_n=\beta ならば \displaystyle\lim_{n \to \infty} (a_n + b_n) = \alpha + \beta が成り立つことを示しましたが、関数の極限についても同様の性質が成り立つことが同様の議論によって示されます。ここでは、論理記号を用いてみましょう。

例題3  \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = \alpha, \ \displaystyle\lim_{x \to a} g(x) = \beta のとき \displaystyle\lim_{x \to a} (f(x) + g(x)) = \alpha +\beta が成り立つことを示せ。

数列の場合に \displaystyle\lim_{n \to \infty} a_n = \alpha, \ \displaystyle\lim_{n \to \infty} b_n=\beta ならば \displaystyle\lim_{n \to \infty} (a_n + b_n) = \alpha + \beta が成り立つことを示しましたが、そのときの証明とほとんど同じです。

[解]  h(x) = f(x) + g(x) とおくと、証明すべきことは、 \displaystyle\lim_{x \to a} h(x) = \alpha +\beta 、すなわち、
\begin{array}{l} ^{\forall}\varepsilon>0, \ ^{\exists}\delta(\varepsilon) >0 \ \ s.t. \\[2ex] \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ 0 < | x \, - \, a | < \delta(\varepsilon) \ \Longrightarrow \ | h(x) \, - \, (\alpha+\beta) | < \varepsilon \end{array}
であり、 \delta(\varepsilon) の存在を示すことが目標である。

与えられた条件より、 \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = \alpha, \ \displaystyle\lim_{x \to a} g(x) = \beta であるから、

^{\forall}\varepsilon_1>0, \ ^{\exists}\delta_1(\varepsilon_1) >0 \ \ s.t. \ \ 0 < | x \, - \, a| < \delta_1(\varepsilon_1) \ \Longrightarrow \ |f(x) \, - \, \alpha| < \varepsilon_1 ^{\forall}\varepsilon_2>0, \ ^{\exists}\delta_2(\varepsilon_2) > 0 \ \ s.t. \ \ 0 < | x \, - \, a| < \delta_2(\varepsilon_2)\ \Longrightarrow \ |g(x) \, - \, \beta| < \varepsilon_2

が成り立つ。 \delta_1(\varepsilon_1) \delta_2(\varepsilon_2) は存在が保証されているから、これらを用いて \delta(\varepsilon) を定義すればよい。

\varepsilon_1 \varepsilon_2 は任意であるから、とくに、 \varepsilon_1 = \displaystyle\frac{\varepsilon}{2}, \ \varepsilon_2 = \displaystyle\frac{\varepsilon}{2} とおくと

^{\exists}\delta_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) >0 \ \ s.t. \ \ 0 < | x \, - \, a| < \delta_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) \ \Longrightarrow \ |f(x) \, - \, \alpha| < \displaystyle\frac{\varepsilon}{2} ^{\exists}\delta_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) >0 \ \ s.t. \ \ 0 < | x \, - \, a| < \delta_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) \ \ \Longrightarrow |g(x) \, - \, \beta| < \displaystyle\frac{\varepsilon}{2}

いま、 ^{\forall}\varepsilon >0 に対して、

\delta(\varepsilon) = \min( \delta_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}), \ \delta_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) )

と定める。このとき、 \delta(\varepsilon) \leq \delta_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) \delta(\varepsilon) \leq \delta_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) であるから、 0 < | x \, - \, a| < \delta(\varepsilon) ならば 0 < | x \, - \, a| < \delta_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) 0 < | x \, - \, a| < \delta_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) の両方が同時に成り立つ。

したがって、 0 < | x \, - \, a| < \delta(\varepsilon) ならば
\begin{array}{l} {\large |} h(x) \, - \, (\alpha + \beta) {\large |} = {\large |} (f(x) + g(x) ) \, - \, (\alpha + \beta) {\large |}\\[2ex] \ \ \ = {\large |} (f(x) \, - \, \alpha ) \, + \, ( g(x) \, - \, \beta) {\large |} \\[2ex] \ \ \ \leq {\large |} f(x) \, - \, \alpha {\large |} + {\large |} g(x) \, - \, \beta {\large |} \\[2ex] \ \ \ < \displaystyle\frac{\varepsilon}{2} +\displaystyle\frac{\varepsilon}{2} = \varepsilon \end{array}
が成り立つ。(証明終)

上の例題の解答で、既に存在が保証されている \delta_1(\varepsilon_1) \delta_2(\varepsilon_2) を利用して、 \delta(\varepsilon) が定義されたことは、数列の場合と同様です。

ただし、 0 < | x \, - \, a| < \delta(\varepsilon) のとき、 0 < | x \, - \, a| < \delta_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) 0 < | x \, - \, a| < \delta_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) が同時に成り立つようにするには、数列の場合と違って、 \max ではなく \min を用いて、 \delta(\varepsilon) = \min( \delta_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}), \ \delta_2(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) ) のように定義しなければならないことに注意しましょう。

練習問題7 以下の (1) と (2) が成り立つことを示しなさい。

(1) \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = \alpha のとき、ある正の数 M が存在して次が成り立つ:ある正の数 \rho が存在して、 0 < | x \, - \, a| < \rho をみたすすべての x に対して、 | f(x) | < M である。

(2) \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = \alpha, \displaystyle\lim_{x \to a} g(x) = \beta ならば \displaystyle\lim_{x \to a} f(x)g(x) = \alpha\beta

 

関数の連続性

関数のグラフを書いたときに、途中でグラフが途切れたり、穴が空いていたりしないとき、その関数は連続であるといいます。正確には、次の2つの条件がみたされるとき、関数 f(x) x = a で連続であるといいます。

(1) f(x) x = a で定義されている。

(2) \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) が存在し、 \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = f(a) が成り立つ。

例えば、下の図 (1) では、 x = a において極限値 \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) が存在し、 \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = f(a) が成り立ちます。この場合、関数は x = a で連続で、グラフが途切れたり、穴が空いていたりすることはありません。

一方、図 (2) では、 x = a において極限値 \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) が存在しません。

図 (3) では、 x = a において極限値 \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) は存在しますが、 \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) \neq f(a) です。

図 (2) と (3) は関数が x = a で不連続な場合の例です。図 (2) ではグラフが途切れています。図 (3) ではグラフに穴が空いています。

 

関数 f (x) x = a で連続である条件「 \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) が存在し、 \displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = f(a) が成り立つ」は、イプシロンデルタ論法を用いて

任意の正の数 \varepsilon に対して、ある正の数 \delta(\varepsilon) が存在し、 0 < | \, x \, - \, a \, | < \delta(\varepsilon) をみたすすべての x に対して、 | \, f(x) \, - \, f(a) \, | < \varepsilon が成り立つ。

のように書くことができます。しかし、上の最後の不等式 | \, f(x) \, - \, f(a) \, | < \varepsilon x = a でも成り立ちます(関数 f(x) x = a で定義されているという条件があることを忘れないでください)。実際、 | \, f(a) \, - \, f(a) \, | = 0 < \varepsilon です。したがって、上の定義文を

任意の正の数 \varepsilon に対して、ある正の数 \delta(\varepsilon) が存在し、 | \, x \, - \, a \, | < \delta(\varepsilon) をみたすすべての x に対して、 | \, f(x) \, - \, f(a) \, | < \varepsilon が成り立つ。

のように修正することができます。 x = a で関数 f(x) が定義されているとき、 f(x) x = a で連続である条件は、このように表されるのです。

 

関数の連続性を理解するために、 f(x) = x^2 x = a で連続であることを示してみましょう。この関数は、すべての x に対して定義されているのは明らかですので、目標は、

任意の正の数 \varepsilon に対して、ある正の数 \delta(\varepsilon) が存在し、 | \, x \, - \, a \, | < \delta(\varepsilon) をみたすすべての x に対して、 | \, f(x) \, - \, f(a) \, | < \varepsilon が成りたつ。

という条件を示すことです。そのために、最後の不等式 | \, f(x) \, - \, f(a) \, | < \varepsilon に注目して、この不等式が成り立つような x の範囲を探します。 \begin{array}{l} | \, f(x) \, - \, f(a) \, | = | \, x^2 \, - \, a^2 \, | \\[2ex] \ \ \ \ \ \ \ \ = | \, x \, - \, a \,| | \, x \, + \, a \,| \end{array}
であるから、 |x \, - \, a| | x \, + \, a | < \varepsilon が成り立つような x の範囲を求めましょう。ここでは、 x a に近いと仮定して、 | x + a | 2|a| に近いと考えます。つまり、 x a に近いとき、
| x + a | < 2|a| + 1
であると考えれば十分でしょう。上の式で、 1 を加えたのは余裕をもたせるためであって、加える正の数は 1 である必要はありません。例えば、 4 でもかまいません。このとき、
\delta(\varepsilon) = \frac{\varepsilon}{2|a| + 1}
と定めれば、 | x \, - \, a | < \delta(\varepsilon) ならば
\begin{array}{rcl} | \, f(x) \, - \, f(a) \, | & =  &| \, x \, - \, a \,| | \, x \, + \, a \, | \\[2ex] & < & \delta(\varepsilon) \cdot (2|a| + 1 ) = \varepsilon \end{array}が成り立ちます。これは、 | x + a | < 2|a| + 1 という不等式を使って得られた結果です。しかし、 x がどの程度 a に近いときに、この不等式が成り立つのかは未だわかりません。そこで、仮に | x \, - \, a | < \varepsilon としてみます。このとき、 x a を中心とする半径 \varepsilon の円(区間)の内部にあるので、 |x| < |a| + \varepsilon が成り立ちます。よって、
\begin{array}{l} | x + a | \leq |x| + |a| \\[2ex] \ \ \ \ < |a| + \varepsilon + |a| \\[2ex] \ \ \ \ = 2|a| + \varepsilon \end{array}
となります。さらに、 \varepsilon は十分小さい数で \varepsilon < 1 であるとすれば、上の不等式は
| x + a | < 2|a| + 1
のようになります。したがって、 \varepsilon <1 をみたすように正の数 \varepsilon を十分小さくとっておけば、 | x \, - \, a | < \varepsilon ならば | x + a | < 2|a| + 1 であることがわかります。

以上より、 \varepsilon < 1 をみたすような任意の正の数 \varepsilon に対して、
\delta(\varepsilon) = \frac{\varepsilon}{2|a| + 1}
と定めます。このとき、 | x \, - \, a | < \delta(\varepsilon) ならば \displaystyle\frac{\varepsilon}{2|a|+1} \leq \varepsilon より、 | x \, - \, a | < \varepsilon となります。よって、 | x \, - \, a | < \delta(\varepsilon) ならば | x + a | < 2|a| + 1 であり、 \begin{array}{l} | f(x) \, - \, f(a) | = | x \, - \, a| | x \, + \, a | \\[2ex] \ \ \ \ < | x \, - \, a| (2|a| + 1) \\[2ex] \ \ \ \ < \delta(\varepsilon) (2|a|+ 1) \\[2ex] \ \ \ \ = \displaystyle\frac{\varepsilon}{2|a| + 1} \cdot (2|a| + 1) = \varepsilon \end{array}
が成り立ちます。したがって、 f(x) = x^2 x = a で連続であることがわかります。なお、この議論では正の数 \varepsilon \varepsilon < 1 という制限を付けました。数列の場合でもそうでしたが、本来 \varepsilon は小さい数であると考えていますので、このような制限を付けることは全く問題ありません。

先ほどの関数の連続性の定義では、 \delta \varepsilon に依存して決まるものなので、 \varepsilon の関数だと思っていました。しかし、この例では \delta = \displaystyle\frac{\varepsilon}{2|a| + 1} とおいたので、 \delta \varepsilon だけでなく a の関数でもあるように思います。

いいところに気が付きましたね。確かにその通りです。

 

これまではきちんと述べていませんでしたが、関数には定義域、つまり、関数が定義されている範囲があります。普通は、関数の定義域は数直線上の区間で、 I という文字で表されることが多いです。例えば、関数 f(x) = x^2 が区間 I = [a, \, b] 上で定義されるというときの区間は、
[a, \, b] = \{ \, x \, | \, a \leq x \leq b \, \}
で表される集合です。この場合、関数 f(x) = x^2 a \leq x \leq b をみたす x に対して定義されていることになります。関数は
(a, \, b) = \{ \, x \, | \, a < x < b \, \}
のように、両端が含まれない区間の上でも定義することができます。また、実数全体の集合は記号 {\bf R} で表されますが、これも区間と考えられています。実際、 {\bf R} = (-\infty, \, \infty) のように書くこともあります。関数 f(x) = x^2 {\bf R} = (-\infty, \, \infty) 上で定義された関数です。

関数 f(x) は区間 I 上で定義されているとします。このとき、 f(x) I 上で連続であるとは、 I 上の任意の点 a f(x) が連続であることを意味します。つまり、区間 I 上て定義された関数 f(x) I 上で連続であるという定義は

任意の a \in I と任意の正の数 \varepsilon に対して、ある正の数 \delta(\varepsilon ; \, a) が存在し、 | \, x \, - \, a \, | < \delta(\varepsilon ; \, a) をみたすすべての x に対して、 | \, f(x) \, - \, f(a) \, | < \varepsilon が成り立つ。

のようになります。ここで、 \delta \varepsilon a の2変数の関数になることに注意しましょう。 {\bf R} 上で定義された関数 f(x) = x^2 については、

任意の a \in {\bf R} および \varepsilon < 1 をみたすような任意の正の数 \varepsilon に対して、
\delta(\varepsilon ; \, a) = \displaystyle\frac{\varepsilon}{2|a| + 1}
とおくと、 | f(x) \, - \, f(a) | < \varepsilon であることが示されていたのです。したがって、関数 f(x) = x^2 {\bf R} 上で連続です。

区間 I 上で定義された関数 f(x) I 上で連続であることを示す場合、 \delta \varepsilon だけでなく、 a の関数でもあることはわかりました。それでは、 \delta \varepsilon だけの関数になることはありえるのでしょうか?

はい、それはありえます。 \delta a に依存せず、 \varepsilon だけの関数になるとき、 f(x) I 上で一様連続であるといいます。この一様連続性は解析学とよばれる分野で重要な役割を果たすことが多いです。

 

練習問題8 関数 f(x) = x^2 - 2x {\bf R} 上の任意の点 p で連続であることを示しなさい。

練習問題9  (1) f(x) = x^2 が区間 [a, b] 上で一様連続であることを示しなさい。ただし、 a b は有限の実数であるとします。

(2) f(x) = x^2 {\bf R} 上で一様連続でしょうか?

 

関数 f(x) = x^3 {\bf R} 上の任意の点 p で連続であることを示そうと思ったのですが、できませんでした。

それは、ちょっと難しいので、おまけで説明しますよ。

おわりに

以上で、イプシロンデルタ論法の説明は終わりました。イプシロンデルタ論法のアイデア自体は単純なもので、関数の極限に関する問題を、関数 \delta = \delta(\varepsilon) の存在問題に帰着させることに本質があります。これは、「あの高校は野球の強い学校です」というイメージを、「甲子園に出場したことがあるか?あるとすれば何回か」という観点から、「あの高校は甲子園に30回出場したことがあります」という正確な文で表現することと同じです。

ただし、この単純なアイデアを使いこなすためには、ある程度の技術的な訓練が必要になります。主張を論理記号で表したり、不等式を使った計算をしたり、否定命題をつくったり、というようなことが技術的な部分であり、習得に時間がかかるところです。この解説が、イプシロンデルタ論法を理解し、技術的な訓練に取り組むときの手助けになれば幸いです。

 

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