高校で学んだ極限の定義ではわからない有名な例

付録

イプシロンデルタ論法やイプシロンエヌ論法は、高校で学んだ極限の定義を使って考えればわかることを、わざわざ証明している面倒くさいだけのものでしょうか?

実は、イプシロンデルタ論法やイプシロンエヌ論法を使わなければわからないという有名な例があるのです。

それは、次の命題です。

\displaystyle\lim_{n \to \infty}a_n = \alpha \ \ \ \text{ならば} \ \ \ \displaystyle\lim_{n \to \infty}\frac{ a_1 + a_2 + \cdots + a_n }{n} = \alpha

これは、高校で学んだ極限の定義

番号 n の値が限りなく大きくなるにつれて、 a_n の値がある一定の値 \alpha に限りなく近づくとき、数列 \{ a_n \} \alpha に収束するといい、 \displaystyle\lim_{n \to \infty}a_n = \alpha と表す。

にもとづいて考えるだけではわからないと思います。

しかし、イプシロンエヌ論法を用いると、この命題は次のように証明することができます。

[証明]

b_n = \frac{ a_1 + a_2 + \cdots + a_n }{n }

とおく。

任意の \varepsilon に対して、ある番号 N(\varepsilon) が存在して、 n \geq N(\varepsilon) ならば | b_n - \alpha | < \varepsilon

が成り立つことを示せばよい。 \displaystyle\lim_{n \to \infty}a_n = \alpha であるから、

任意の \varepsilon_1 に対して、ある番号 N_1(\varepsilon_1) が存在して、 n \geq N_1(\varepsilon_1) ならば | a_n - \alpha | < \varepsilon_1

が成り立つ。したがって、

ある番号 N_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) が存在して、 n \geq N_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) ならば | a_n - \alpha | < \displaystyle\frac{\varepsilon}{2}

が成り立つ。

簡単のため、 N_1^* = N_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) と書くことにする。このとき、

n \geq N_1^* ならば、

\begin{array}{l} | b_n - \alpha | = \left| \displaystyle\frac{ a_1 + a_2 + \cdots + a_n }{n} - \alpha \right| \\[4ex] \ \ \ = \left| \displaystyle\frac{ ( a_1 + a_2 + \cdots + a_n ) - n \alpha }{n} \right| = \left| \displaystyle\frac{ (a_1 - \alpha) + (a_2 - \alpha) + \cdots + (a_n - \alpha) }{n} \right| \\[4ex] \ \ \ = \left| \displaystyle\frac{ (a_1 - \alpha) + (a_2 - \alpha) + \cdots + (a_{N_1^*} - \alpha) }{n} + \displaystyle\frac{ (a_{N_1^* +1 } - \alpha) + (a_{N_1^* + 2 } - \alpha) + \cdots + (a_{n} - \alpha) }{n} \right| \\[4ex] \ \ \ \leq \displaystyle\frac{ | a_1 - \alpha | + | a_2 - \alpha | + \cdots + | a_{N_1^*} - \alpha| }{n} + \displaystyle\frac{ |a_{N_1^* +1 } - \alpha| + |a_{N_1^* + 2 } - \alpha | + \cdots + | a_{n} - \alpha| }{n} \end{array}

が成り立つ。

S^* = | a_1 - \alpha | + | a_2 - \alpha | + \cdots + | a_{N_1^*} - \alpha|

とおく。 S^* N_1^* 個の項からなる有限和である。ここで、 N_1^* = N_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) であるから、 S^* \varepsilon の関数であることに注意する。

いま、 \displaystyle\frac{2S^*}{\varepsilon} を超える最小の自然数を N_2(\varepsilon) と定める。このとき、 N_2(\varepsilon) > \displaystyle\frac{2S^*}{\varepsilon} より

\frac{S^*}{N_2(\varepsilon)} < \frac{\varepsilon}{2}

であるから、 n \geq N_2(\varepsilon) ならば

\displaystyle\frac{ | a_1 - \alpha | + | a_2 - \alpha | + \cdots + | a_{N_1^*} - \alpha| }{n} = \frac{S^*}{n} < \frac{\varepsilon}{2}

が成り立つ。

また、 n \geq N_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) ならば | a_n - \alpha | < \displaystyle\frac{\varepsilon}{2} が成り立つから、 n \geq N_1^* = N_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}) ならば、

\begin{array}{l} \displaystyle\frac{ |a_{N_1^* +1 } - \alpha| + |a_{N_1^* + 2 } - \alpha | + \cdots + | a_{n} - \alpha| }{n} \\[3ex]  < ( \displaystyle\frac{\varepsilon}{2} + \frac{\varepsilon}{2} + \cdots + \frac{\varepsilon}{2} ) \cdot \frac{1}{n} \\[3ex] \ \ \ = \displaystyle\frac{\varepsilon}{2} \cdot (n - N_1^*) \cdot \frac{1}{n} < \frac{\varepsilon}{2} \end{array}

が成り立つ。したがって、任意の \varepsilon に対して、 N(\varepsilon) = \max( N_1(\displaystyle\frac{\varepsilon}{2}), N_2(\varepsilon) ) とおくと、 n \geq N(\varepsilon) ならば

\begin{array}{rcl}| b_n - \alpha | & < &  \displaystyle\frac{ | a_1 - \alpha | + | a_2 - \alpha | + \cdots + | a_{N_1^*} - \alpha| }{n} + \displaystyle\frac{ |a_{N_1^* +1 } - \alpha| + |a_{N_1^* + 2 } - \alpha | + \cdots + | a_{n} - \alpha| }{n} \\[3ex] & < & \displaystyle\frac{\varepsilon}{2} + \frac{\varepsilon}{2} \ = \ \varepsilon \end{array}

が成り立つ。

タイトルとURLをコピーしました