練習問題2の解説

付録

イプシロンデルタ論法の試験を受けて「できた」と思っても、成績が「不可」になっていて残念だったという人は多いのではないでしょうか。しかも、どこで間違ったのか理由がわからないと感じている人は多いはずです。Step2の練習問題2

\displaystyle\lim_{n \to \infty} a_n = \alpha のとき、 \displaystyle\lim_{n \to \infty} c a_n = c \alpha が成り立つことを示しなさい。

は簡単そうに見えるので、試験では「できた」と思う人は多いでしょう。実際、試験をすると次のような答案が非常に多く出てきます。

(練習問題2の答案例) \displaystyle\lim_{n \rightarrow \infty} a_n = \alpha であるから、 ^{\forall} \varepsilon> 0 に対して、ある番号 ^{\exists} N があって、 n \geq N ならば |a_n - \alpha | < \varepsilon である。このとき、

| ca_n - c \alpha | = |c| | a_n - \alpha | < |c| \varepsilon

が成り立つ。ここで、 |c| \varepsilon = \varepsilon' とおくと、 \varepsilon' は任意であり、 | ca_n - c \alpha | < \varepsilon' が成り立つ。よって、 ^{\forall} \varepsilon' > 0 に対して、ある番号 ^{\exists} N があって、 n \geq N ならば

|ca_n - c\alpha | < \varepsilon'

である。これは、 \displaystyle\lim_{n \rightarrow \infty} ca_n = c\alpha であることを示している。(答案終)

この答案を書いた人は「できた」と思っているはずです。確かに、ざっと読むとわかっているように見える答案ですが、実は最も重要な点が全くわかっていないようにも思えます。私はこのような答案を0点として採点することが多いです。以下では、その理由を説明しましょう。

例えば、 a_n = 1/n b_n = 2/n で定義される次のような数列を考えてみます。

\begin{array}{l} a_n \ : \ 1, \ \displaystyle\frac{1}{2}, \ \displaystyle\frac{1}{3}, \ \displaystyle\frac{1}{4}, \ \cdots \ \\[3ex] b_n \ : \ 2, \ 1, \ \displaystyle\frac{2}{3}, \ \displaystyle\frac{1}{2}, \ \cdots \ \end{array}

\{ a_n \} \{ b_n \} はともに 0 に収束します。いま、 | a_n | < 0.01 をみたす番号 n を求めてみます。 | 1/n | < 0.01 より n > 1/0.01 = 100 ですから、そのような番号は n \geq 101 をみたします。同様に、 | b_n | < 0.01 をみたす番号 n を求めてみます。 | 2/n | < 0.01 より n > 2/0.01 = 200 ですから、そのような番号は n \geq 201 をみたします。これより、 \{ a_n \} \{ b_n \} はともに 0 に収束するのですが、その速さは違うことがわかります。つまり、 0 \varepsilon 圏内(この例では \varepsilon=0.01 とした)を設定したときに、数列がその \varepsilon 圏内に(初めて)入る番号 N は、数列によって異なるということです。

さて、上の答案をよく見ると、次のようになっています。

^{\forall} \varepsilon> 0 に対して、ある番号 ^{\exists} N があって、 n \geq N ならば |a_n - \alpha | < \varepsilon である。
^{\forall} \varepsilon'> 0 に対して、ある番号 ^{\exists} N があって、 n \geq N ならば |ca_n - c\alpha | < \varepsilon' である。

\{ a_n \} \{ ca_n \} は別の数列であるにもかかわらず、上の答案では「ある番号」を同じ記号の N で表しています。これは混乱の原因になります。それでは、もしも

^{\forall} \varepsilon> 0 に対して、ある番号 ^{\exists} N があって、 n \geq N ならば |a_n - \alpha | < \varepsilon である。
^{\forall} \varepsilon'> 0 に対して、ある番号 ^{\exists} N' があって、 n \geq N' ならば |ca_n - c\alpha | < \varepsilon' である。

という答案だとしたら、これは数列の極限をよく理解している答案といえるのでしょうか?この場合、見かけ上は \{ a_n \} \{ ca_n \} が区別されているように思えます。しかし、ここでよくわからないのは、 N N' の関係です。与えられた条件 \displaystyle\lim_{n \rightarrow \infty} a_n = \alpha より、

^{\forall} \varepsilon> 0 に対して、ある番号 ^{\exists} N があって、 n \geq N ならば |a_n - \alpha | < \varepsilon である

が成り立つことは前提事項であり、ある番号 N の存在も保証されています。しかし、 \displaystyle\lim_{n \rightarrow \infty} ca_n = c\alpha は証明すべき事項であり、

^{\forall} \varepsilon'> 0 に対して、ある番号 ^{\exists} N' があって、 n \geq N' ならば |ca_n - c\alpha | < \varepsilon' である

において、ある番号 N' は既に存在が保証されている N を用いて定義されなければなりません。上の答案からは N' がどのようにして定義されたのかが全く見えません。おそらく、上の答案は番号 N \varepsilon の関数であるいうことを中途半端に理解している可能性が極めて高いと思われます。実際、この種類の答案では、ある番号を単に N とだけ書いており、それが \varepsilon に依存することを明示していない(あいまいな理解)という共通の特徴があります。もし、上の答案で

^{\forall} \varepsilon> 0 に対して、ある番号 ^{\exists} N(\varepsilon) があって、 n \geq N(\varepsilon) ならば |a_n - \alpha | < \varepsilon である。

と書いていたのなら、 \varepsilon |c| = \varepsilon' とおいたときに、 \varepsilon = \varepsilon'/|c| より

^{\forall} \varepsilon'> 0 に対して、ある番号 ^{\exists} N(\displaystyle\frac{\varepsilon'}{|c|}) があって、 n \geq N(\displaystyle\frac{\varepsilon'}{|c|}) ならば |ca_n - c\alpha | < \varepsilon' である。

となることに気がついた可能性は高いと思われます。これより、

N'(\varepsilon') = N(\displaystyle\frac{\varepsilon'}{|c|})

と定義すれば、番号 N' \varepsilon' の関数であることがわかり、 N N' の関係も明確になります。

このように修正した答案は、 c=0 の場合を考慮していません。しかし、それは細かいミスであるといえます。一方、 N \varepsilon の関数で N' \varepsilon' の関数という本質を理解していないと思われる答案は、0点と採点されてもしかたがありません。経験上、この練習問題で「ある番号」を単に N とだけ書いてしまう人は、本当の理解に到達できていない人であると考えています。確かに、もとの答案を好意的に解釈すると、 N(\displaystyle\frac{\varepsilon'}{|c|}) を単に N と書いていた可能性があります。しかし、このような答案を書いてしまう人は、他の問題でも重大なミスを連発していることが多いです。そういう場合は、総合的に判断して、この答案を0点として採点しています。

ちなみに、少し気が付きにくいのですが、うまい答案は

N'(\varepsilon') = N(\displaystyle\frac{\varepsilon'}{1+|c|})

と定義して、 ^{\forall} \varepsilon'> 0 に対して、 n \geq N'(\varepsilon') ならば

|ca_n - c\alpha | = |c||a_n - \alpha | < \displaystyle\frac{|c| \varepsilon'}{1+|c|}< \varepsilon'

を示したものになります。このようにすると、 c = 0 の場合も問題なく扱えます。

最後に、理解を深めるために、 a_n = 1/n b_n = 2/n で定義される数列 \{ a_n \} \{ b_n \} について、 N N' の関係を具体的に計算して確かめてみるとよいでしょう。

 

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